リターンポンプの選び方|揚程曲線の読み方と実際に回る流量の見積もり
リターンポンプは最大流量の数字だけでは選べません。メーカーの揚程曲線の読み方、高低差と配管の抵抗の考え方、50Hz・60Hzの違い、流量の調整までを整理します。オーバーフロー水槽では、水槽から落ちた水をサンプ(濾過槽)から水槽へ押し上げて戻すポンプが必要です。これがリターンポンプです。

この記事のポイント
リターンポンプは最大流量の数字だけでは選べません。メーカーの揚程曲線の読み方、高低差と配管の抵抗の考え方、50Hz・60Hzの違い、流量の調整までを整理します。オーバーフロー水槽では、水槽から落ちた水をサンプ(濾過槽)から水槽へ押し上げて戻すポンプが必要です。これがリターンポンプです。
オーバーフロー水槽では、水槽から落ちた水をサンプ(濾過槽)から水槽へ押し上げて戻すポンプが必要です。これがリターンポンプです。カタログで最初に目に入るのは「最大流量」ですが、その数字は水を持ち上げる高さがゼロのときの値で、実際の水槽でそのまま流れるわけではありません。この記事では、メーカーが公開している仕様と揚程曲線の読み方をもとに、自分の水槽でどれだけ水が回るかを見積もる考え方を整理します。サンプの水位設計やリターン配管のサイフォン逆流の対策はオーバーフロー水槽の溢れ・逆流対策にまとめているので、ここではポンプの選び方に絞ります。
「最大流量」と「最高揚程」は曲線の両端
ポンプの仕様表には、たいてい最大流量(Q-Max など)と最高揚程(H-Max、Max Head など)の2つの値が並びます。最大流量は水を持ち上げない状態で流せる量、最高揚程はそのポンプが水を押し上げられる高さの限界で、その高さでは流量がゼロになります。実際の運転は、この2点の間のどこかで行われます。
その間の関係を描いたのが揚程曲線(性能曲線)です。たとえばイタリアのポンプメーカー Sicce は、水槽用ポンプの製品頁に機種ごとの最大流量・最高揚程と、性能曲線の図を載せています(Sicce:Syncra Silent の製品頁)。図は縦軸が高さ、横軸が流量で、高さが増えるほど流量が減っていく右下がりの線になっています。読むときの手順は次のとおりです。
- 自分の水槽で必要な揚程(後述)を縦軸にとる
- その高さで横に線を引き、候補の機種の曲線と交わる点を探す
- 交点の真下の横軸の値を、その高さで見込める流量の目安にする
同じメーカーの曲線を並べると、最大流量が大きい機種と最高揚程が高い機種の線が、途中の高さで交差していることもあります。最大流量の数字だけで比べず、自分の水槽の高さで比べることが大切です。
曲線の数字は「抵抗のない配管」での値
前出の Sicce の性能曲線の図には、データは制約のない垂直の配管で測ったもので、配管の構成が違えば出力が変わりうる、という注記が添えられています。実際の水槽では、配管の長さ、エルボ(曲がり)、ボールバルブ、逆止弁、分岐、細いノズルなどがそれぞれ抵抗になり、同じ高さでも曲線どおりには流れません。
そのため、必要な揚程は次の2つを足して考えます。
- 実際の高低差:サンプの水面から、水槽側の吐出口までの垂直距離(吐出口が水中にあれば水槽の水面まで)。ポンプ本体の位置ではなく、サンプの水面から測ります
- 配管の抵抗:配管が長いほど、曲がりが多いほど、径が細いほど大きくなる分。条件によって変わるので、高低差だけで読んだ流量より少なめになると見込みます
高低差がその機種の最高揚程ぎりぎりだと、配管の抵抗が加わった時点で流量がほとんど出なくなるおそれがあります。必要な高さで流量に十分な余裕が残る機種を候補にするのが、無理のない選び方です。
どれだけ回したいかは水槽の構成から決める
リターンポンプの流量は、そのままサンプを通る水の量になります。必要な流量は水槽の容量だけでは決まらないので、次の点と突き合わせて決めます。
- オーバーフロー管の排水能力:戻す量が落とせる量を上回ると、水槽の水位が上がり続けます。配管の径と排水の方式で処理できる量が決まるので、ここが上限になります
- サンプ内の機材:プロテインスキマーやリアクター、UV 殺菌灯などには、それぞれ説明書で想定している通水量があります。サンプの中を速く流れすぎると、細かい泡がリターンに吸い込まれて水槽に回ることもあります
- 水槽内の水流:水槽の中の水流は水流ポンプ(ウェーブメーカー)で作るのが基本です。リターンだけで水流をまかなおうとすると、サンプ側の流量が過大になりがちです
「水槽容量の何倍を回す」という目安は情報源によって幅があります。数字だけを当てはめず、上の条件の中に収まる流量を選んでください。
流量の調整と電源の周波数
選んだポンプの流量が多すぎた場合の調整手段も、あらかじめ考えておきます。DC ポンプの多くはコントローラで回転数を変えられます。AC ポンプでは、吐出側の配管にボールバルブを付けて絞るのが一般的です。吸い込み側を絞るとポンプに無理がかかるので、絞るのは吐出側にします。
国内で AC ポンプを使う場合は、電源の周波数にも注意が必要です。工業用ポンプの例ですが、イワキのマグネットポンプ MD シリーズの仕様は、最大吐出量と最高揚程の範囲を 50Hz と 60Hz で分けて示しています(イワキ:マグネットポンプ MD シリーズ)。東日本は主に 50Hz、西日本は主に 60Hz なので、住んでいる地域の周波数での仕様や曲線を見て選んでください。周波数ごとに型番が分かれている機種もあるため、購入前に説明書で確かめておくと安心です。
単位にも注意します。メーカーによって流量は L/h(1時間あたり)、L/min(1分あたり)、米国の gph(1時間あたりのガロン)、高さは m や ft(フィート)で書かれています。1 L/min は 60 L/h です。比べるときは単位をそろえてから読みましょう。
導入したあとに見ておきたいこと
- サンプの水位:蒸発で水位が下がると、ポンプが空気を吸い込んで空運転に近づきます。補水はATO(自動給水装置)などで安定させます
- 熱と音:水中ポンプは水に熱を出し、外部ポンプは設置のしかたで振動音が出ます。夏場の水温や置き場所と合わせて考えます
- 掃除と記録:インペラーや吸い込み口に汚れや石灰分が付くと流量が落ちます。導入時の流量や吐出口の勢いを記録しておくと、落ちたときに気づきやすくなります
異音や流量の低下など、交換を考えるべき予兆については海水水槽の機材トラブルの予兆と交換の目安も参考にしてください。カタログの最大流量ではなく、「自分の水槽の高さで、どれだけ回るか」を曲線から読む習慣をつけると、ポンプ選びで大きく外すことは少なくなります。


